平鍋健児氏を招聘して「ビジネスの潮流とアジャイル開発」に関するセミナーを開催

2020.10.21 News

2020年10月9日(金)に、日本のアジャイル開発の第一人者である平鍋健児氏を講師に迎えて、デジタルビジネスとアジャイル開発をテーマにした社員向けのセミナーを開催しました。今回はコロナ渦ということもありオンラインでの開催となりましたが100名を優に超える参加者が集まりました。

本研修では、デジタル時代にマッチした開発手法としてアジャイル開発が現れてきたビジネス的背景や、日本の経営学者である野中郁次郎先生の理論を元にした「スクラム」を例に技術的特徴や事例などについて、やさしく解説していただきました


(オンライン研修の講演の様子)

講演の中で時々平鍋氏から参加者に問いかけがあり、参加者のチャットでの回答を確認しながらインタラクティブに研修を進めていただきました。

スクラムの起源の説明では、弊社の今野が監訳した日本で最初のスクラムの本である「アジャイルソフトウェア開発スクラム」も紹介され、ここから野中先生の有名な論文「The New New Product Development Game」とスクラムの関係が説明されていました。


(日本で最初のスクラムの本「アジャイルソフトウェア開発スクラム」)
※写真左から英語版:ペーパーパック, 2001/日本語版: ピアソンエデュケーション,2003

平鍋氏がアジャイル開発を実践する場合、次の5つの原則を重視しているそうです。
 ● 見える化 :目に見えるようにして、行動につなげる。
 ● リズム :人間活動として定期的なリズムを設計する。
 ● 名前づけ :気づいた概念に名前をつけておく。
 ● 問題対私たち :「問題」と「人間」を分離する。(問題と向き合う)
 ● カイゼン :継続的に、今の自分たちにできる、小さなことから。
この中で、まず最初にやることはプロジェクトの「見える化」だそうです。その理由は、正しく見える化することがメンバーの自発的な行動につながるからだそうです。これはスクラムの理論の3本柱である透明性にも繋がるものがあるなと感じました。


(アジャイル開発実践における「5つの原則」)

平鍋氏はこの「見える化」を野球のスコアボードにたとえて説明してくれました。もしスコアボードの情報が間違っていたら、野球の試合は成立しません。スコアボードに正しい情報が示されているからこそ、選手や審判は正しい判断ができます。観客や解説者も同様ですね。例えば、スコアボードが2死フルカウントを正しく示していたら、ランナーは指示がなくても走りますね。ソフトウェア開発でも、かくあるべしと言うわけです。

講演の最後に
”KNOWLEDGE IS A TREASURE BUT PRACTICE IS THE KEY TO IT”
「知識は宝だが、実践がその鍵である」
という歴史家トーマス・フラーの言葉をメッセージとしていただきました。


(平鍋氏からのラストメッセージ)

これはまさにスクラムの理論である、「経験的プロセス制御の理論(経験主義)」のことですね。スクラムは、この経験主義を基本にして、反復的かつ漸進的な手法を用いて、予測可能性の最適化とリスクの管理を行います。

平鍋氏は、講演の中でアジャイル開発をサラダバーのメタファで説明してくれました。サラダバーには多種の野菜(既存のプラクティス)が並んでいて、それをスクラムという器(うつわ)に(自分達で選んだものを)取って、食べてみる。美味しいものは残し、そうでないものは捨てる。それを繰り返しながら、好みのドレッシング(各現場での様々な創意工夫)をふりかけることによって美味しいサラダになる(開発が上手くいく)というわけです。

●講演後のQ&Aも大盛況でした
講演後にQ&Aの時間を用意していたのですが、若手からベテランまで積極的に質問が飛び交いオンライン開催にもかかわらず非常に活気のある研修となりました。講師の平鍋氏には予定した時間を超えて、ひとつひとつの質問にフランクかつ丁寧に回答していただきました。本当にどうもありがとうございました。

●おわりに
研修の説明の中で、あの「アジャイルソフトウェア開発宣言(日本語版)」の翻訳をしていたのは実は平鍋氏だったということを知りました。様々なところで引用されているこの宣言ですが、知らないうちに平鍋氏のお世話になっていたようです(笑)。


(平鍋氏が翻訳した「アジャイルソフトウェア開発宣言(日本語版)」)

この宣言が2001年に発表されてから20年近くの年月が経ちますが、残念ながら今でもまだ「アジャイル開発では左側の価値を重視していない(やらない)」と思われている場合があるようです。決してそんなことはないですよ、と改めて解説してくれたことが印象に残りました。本セミナーでは、時間の都合でスキップしたスライドもありましたが、その中にも興味深いものがありました。その内容はまた次の機会にお伺いしたいと思います。

■講師情報
平鍋健児(ひらなべけんじ)
株式会社永和システムマネジメント代表取締役社長、株式会社チェンジビジョンCTO、Scrum Inc. Japan 取締役
福井での受託開発を続けながら、オブジェクト指向設計、組込みシステム開発、アジャイル開発を推進し、UMLエディタastah*(旧JUDE)を開発。
現在、国内外で、モチベーション中心チームづくり、アジャイル開発の普及に努める。
ソフトウェアづくりの現場をより生産的に、協調的に、創造的に、そしてなにより、楽しく変えたいと考えている。
2009 年から10年開催している、アジャイルジャパン初代実行委員長。
著書『アジャイル開発とスクラム〜顧客・技術・経営をつなぐ協調的ソフトウェア開発マネジメント』、翻訳『リーン開発の本質』、『アジャイルプロジェクトマネジメント』など多数。

■関連リンク
【永和システムマネジメント】

esm – 人のチカラで未来をつくる。


【チェンジビジョン】
https://www.change-vision.com/
【Scrum Inc. Japan】

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■参考資料
【アジャイルソフトウェア開発宣言】
https://agilemanifesto.org/iso/ja/manifesto.html
【Introduction to Agile – how business and engineer team up】