シリコンバレー通信 – 2021年2月版- 新型コロナウイルス禍でも伸びるSPAC IPO

スタートアップや投資情報を提供しているCrunchbase Newsが”2020 Global Venture Report”を発表しました。

この内容を解説しながら、2020年Q3のグローバル投資動向、新型コロナウイルス禍でも伸びたSPACという株式上場手法、今後の投資トレンドについて考察をしていきたいと思います。

グローバルベンチャー資金は微増

図1:2011年から2020年までのグロバールベンチャ資金の推移(Crunchbase news:https://2utfff4d3dkt3biit53nsvep-wpengine.netdna-ssl.com/wp-content/uploads/2021/01/GlobalQ42020Y-1536×1154.jpgより)

図1よりパンデミックの逆風にもかかわらず、グローバルベンチャー資金は前年比4%増の3,000億ドルでした。Crunchbaseでは、オンラインサービスへの移行ニーズが高まり、その結果、この移行をサポートするテクノロジーインフラストラクチャおよびクラウドサービス企業にブームが生まれたと分析しています。

図2: 2020年のグロバールベンチャ資金の内訳(https://2utfff4d3dkt3biit53nsvep-wpengine.netdna-ssl.com/wp-content/uploads/2021/01/GlobalQ42020Q.jpgより)

図2より、投資先の詳細についてみていくと、アーリーステージへの投資は落ち込んだもののレイトステージ、テクノロジーグロースで増加し、結果として、グローバルベンチャー資金は前年比を上回ったことがわかります。

また、2020年を振り返ると、第一四半期にパンデミックの影響を受けたもののその後、第二四半期から資金調達のベースは復活したことがうかがえます。

シード資金とエンジェル資金

図3: シード資金とエンジェル資金(https://2utfff4d3dkt3biit53nsvep-wpengine.netdna-ssl.com/wp-content/uploads/2021/01/GlobalQ42020Seed-1536×1096.jpgより)

シード資金とエンジェル資金は第4四半期のシード資金は33億ドルで、前年同期比で27%減少しています。

アーリーステージの資金

図4: アーリーステージの資金(https://2utfff4d3dkt3biit53nsvep-wpengine.netdna-ssl.com/wp-content/uploads/2021/01/GlobalQ42020Early-1536×1107.jpgより)

第4四半期のアーリーステージの資金調達は合計227億ドルで、前年同期比で11%減少しています。

レイトステージ、テクノロジーグロース資金

図5: レイトステージ、テクノロジーグロース資金(https://2utfff4d3dkt3biit53nsvep-wpengine.netdna-ssl.com/wp-content/uploads/2021/01/GlobalQ42020Late-1536×1096.jpgより)

レイトステージ、テクノロジーグロース資金は、第4四半期に500億ドル弱で、前年比で4%増加しています。

シリコンバレースタートアップへの投資トレンド

続いて、シリコンバレーのスタートアップへの投資トレンドをみていきます。

図6: シリコンバレーのスタートアップへの投資トレンド(https://www.ped.co.jp/wp-content/uploads/2020/06/siliconValleyStartup-Fig02-2048×1387.pngより)

P&E Directionsによる分析では、上位4分野のAI、Health Care、Biotechnology、Analyticsは変わらないものの、2020年は新たにCollaboration、Employment、Customer Serviceといったニューノーマルへの対応ソリューションへの投資が顕著だったとしており、Crunchbaseの分析を裏付けるものとなっています。

SPAC IPO

ここではSPACの詳細については触れませんが、従来型IPOを回避して株式を上場する手法としてSPAC(Special-Purpose Acquisition Company:特別買収目的会社)を使う企業が急速に増えています。
先に受け皿となる「企業買収を目的とする企業(SPAC)」を上場させて資金を集め、2、3年以内にターゲット企業を選定。その企業を買収して、事実上IPOを回避して上場企業とする方法です。

SPAC自体は米国では1980年代から存在する上場の仕組みで、日本では「裏口上場」といわれることもあり、あまり注目されてきていませんが、機関投資家向け説明会などの手続きを省けるため、IPOに係る時間とコストを節約できます。

図7:SPAC IPOの推移(https://mcusercontent.com/3cb77a034b24685b4ac78f187/images/52c50445-c09a-4eee-8a64-cadc57ce590c.pngより)

SPACによるIPOの件数は、2013年は10件でしたが2020年には200件を超え20倍以上となっています。また、SPACによる資金調達額ベースだと2013年の約1,500億円から2020年には約8.4兆円と56倍もの規模になっています。SPACの平均サイズも、2013年に150億円だったものが、2020年には400億円と大型化しています。

新型コロナウィルスの影響によって、機関投資家向け説明会などがオフラインによる開催が難しくなり、機関投資家向け説明会など省けるSPACによるIPOが増えたと考えています。

まとめ

投資家はオフラインによる面談ができない環境で、オンラインによる投資が判断できるようになったり、スタートアップも新型コロナウイルス禍をニーズととらえ、対応するソリューションを提供するなど、パンデミックに適応してきているようです。

1月に開催されたCESであげられた2021年のキートレンドが、デジタルヘルス、デジタルトランスフォーメーション、ロボット&ドローン、ビークルテクノロジー、5Gコネクティビティ、スマートシティであったことを考慮すると2021年も引き続き、AI、ヘルスケア、バイオテクノロジー、アナリティックに加えて、コラボレーション、雇用、カスタマーサービスといったニューノーマルへの対応ソリューション、つまり、オンラインサービスとそれをサポートするテクノロジーインフラストラクチャおよびクラウドサービス企業に投資が集まるのでしょう。