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AI 画像変化検出 画像処理
近年、深層学習の分野の発展に伴い、スマホの顔認証や生産工場での不良品自動検知システムなどの画像認識技術も発展しています。2025年には「画像認識関連技術」の国内市場は、2018年比で3.1倍の746億円になると分析されています[1]。
画像認識技術の分野の一つである「画像変化検出」は、深層学習の発展に伴い様々な手法が開発されています。画像変化検出の研究では、主に衛星画像や航空写真から土地の変化や環境変化の監視を行うリモートセンシング技術が研究対象となっていますが、近年では監視カメラを用いて工場内の環境変化検出や災害対策などにもその技術が導入されるようになっています。
本記事では画像変化検出に着目し、事例や研究動向をご紹介いたします。また、最後にBTC独自のモデル構築ノウハウも一部ご紹介させて頂きます。
近年注目を集める画像認識技術の一つに、画像変化検出(Image Change Detection)があります。これは、同じ場所の異なる時間帯の画像同士を比較し、変化のあった箇所を検出する技術です。
画像変化検出の技術発展により広がるビジネスの可能性は、下記2点に大別されます。
例えば自然災害発生時にアラートを発生させる仕組みは、監視の候補となる地点の数や監視に必要な人件費の観点から人手による実現が難しい仕組みです。画像変化検出を利用することで、こうした新しいサービスが実現されるようになってきています。
品質チェックの自動化などは、人件費を削減し、さらに業務を均質化/効率化します。画像変化検出により、サービスや製品の質を高めることができるようになってきています。
本記事では、よりビジネスへのインパクトが大きい「1.新規サービスの創出」に該当する事例と、それを支える技術を紹介します。
画像変化検出には以下のような応用例が知られています[2]。
応用例 | データタイプ | |
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都市環境 | 都市の拡大 |
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公共空間の管理 |
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建物の変化検出 |
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資源 & 環境 | 人為的な環境変化 |
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河川の変化 |
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海氷 |
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湖面、海面の変化 |
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森林監視 |
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自然災害 | 地すべりマッピング |
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被害状況の把握 |
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災害予兆察知 |
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室内環境 | 室内の環境変化 |
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天文 | 惑星表面 |
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上記の応用例に関連した新規サービスの創出につながる可能性の高い事例を、以下3点ご紹介します。
工場内の監視カメラ映像から変化点検出を行っている事例があります。物体が置かれたりや持ち去られたりした位置を自動的に取得し、変化位置の認識を行うことでその位置情報を記録し、それを用いて変化点の位置を示すことを目的としています。画像間の差分検知によって自動で細かい変化を捉えることができ、工場内の環境変化を短時間で検知することでそれらが原因となる機械動作の不具合を解決することができます。
監視カメラを用いて災害監視システムを導入した事例です[3]。災害対策用に土砂災害や河川氾濫などが予想される場所に監視カメラを設置し、リアルタイムで現場の微細な変化を検知しアラートを出すシステムです。工事現場の監視などへの実用化も進められています。
監視カメラで不法投棄を検知するシステムを導入した事例があります[4]。監視カメラ映像の差分から異常を検知すると撮影を開始して記録するシステムで、自動で不法投棄現場を捉えることができます。
このように、近年のAIの著しい発展が背景となり、画像変化検出の応用により様々なビジネスの可能性が切り開かれるようになってきています。
高い有用性を持つ画像変化点検出ですが、実用には様々な技術的工夫が求められます。画像のピクセルレベルで生じたすべての変化を検出してしまうと、「変化として捉えるべきではない変化」、すなわちノイズが多く検出されてしまいます。ノイズの典型的な例として、影の違いなど光学起因のノイズやカメラの電圧のばらつきなどによるランダムノイズが挙げられます。
画像変化検出手法の研究は古く、古典的には、画像差分法やChange Vector Analysisで変化マップを得る方法、また主成分分析により相関情報を抑え分散を強調する手法などがあります。さらに近年では深層学習が登場し、Autoencoderや Convolutional Neural Networkなどの深層学習モデルをベースとした手法も広く研究されるようになったことで、ノイズの適切な除去と両立するより高精度の変化検出が実現されています。
以下の表に画像変化検出の様々な手法をまとめました。
分類 | 手法 | メリット | デメリット |
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古典的 |
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AIベース |
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ここでは特に汎用性に優れた Fully Convolutional Network を用いた手法を紹介します[5]。この手法では、CVA(Change Vector Analysis)やSVM (Support Vector Machine)などの補助手法で得られた変化点マップを教師とした教師付き学習により、始めにラベル付きのデータセットを用意する必要のない学習を実現します。
上記の手法は、データセットの準備が難しい、またはコストに見合わない条件下でも適用できる点で実用性が高く、教師とする補助手法の選定次第で画像変化検出としての特性を調整できるため、汎用性の面でも優れています。また、この手法はCVA/SVM等の補助手法に比して高い精度を達成しただけでなく、いくつかの教師ありの手法と同等の精度を達成することが実証されています[5]。
BTCでは、前章「実用性と汎用性に優れた学習モデルによる画像変化検出」でご紹介した論文を参考にし、画像変化検出モデルの構築を行いました。ここではそのモデル構築ノウハウをご紹介いたします。
このモデルでは教師データに用いる変化点マップの選択をする必要がありますが、今回はk-means、CVA、histogram-base、iteratively reweighted MAD (IR-MAD)の4つの古典的な手法で得られる変化点マップの中からいくつかの組み合わせを試すことで、全体的な画像変化検出精度の向上を図りました。
画像変化検出の難点としては、「ノイズ除去」と「微細な変化領域の検出」の2点がありました。ノイズとは主に光学起因による影の変化などのこと、微細な変化領域とは画像に対して非常に小さな変化領域のことを指します。ノイズ除去の対策として、標準化や様々なフィルタの選択、色調を変化させてデータ拡張を行いその精度を向上させました。また、微細な変化領域の検出への対策として、入力画像の拡大を行うことで検出精度を向上させました。
本記事でご紹介した画像変化検出は、近年のAIの著しい発展も追い風となってより精度の高い手法が提案されるようになり、豊富なビジネス事例を生んでいます。
将来、より正確な画像変化検出が可能になれば、人の目では気が付きにくい微細な変化を素早くとらえることで、自然災害発生のリスクとなりそうな微小な変化をより正確・迅速に検知したり、作業現場などの事故発生のリスクを捉えアラートを出すなどして注意を促すといったことが期待されます。また本記事では触れませんでしたが、画像変化検出に近縁の技術の動向として、システムの異常を振動や音の変化から事前に検知する予兆検知も近年注目を集めています。
BTCでは今後も幅広い分野での情報収集に努め、実用性や汎用性に優れた手法を選定することで、AIによる新たなビジネス創出をご支援いたします。
[1]株式会社富士キメラ総研 「2020 画像・音声AI/次世代インターフェース市場の現状と将来展望」
[2] Wenzhong Shiら 「Change Detection Based on Artificial Intelligence: State-of-the-Art and Challenges 」
[3] ギトウシステムズ株式会社 「映像変化量検出 差分検出」
[4] 株式会社クロサワ 「Perfect Finder 不法投棄監視カメラシステム」
[5] Xuelong Liら 「Unsupervised Deep Noise Modeling for Hyperspectral Image Change Detection」