シリコンバレーにおけるスタートアップ事情 – 2016年11月版 –

2016.12.01 News

シリコンバレーにおけるスタートアップ事情 – 2016年11月版 –

エッジの効いた技術を持った技術者を訪ねて

著者は弊社インキュベーション事業部の代表として、エッジの効いた技術を入手するために、そして、そのような技術を持っている技術者に出会うべく、渡米してきた。これは、容易なこととは著者自身が考えておらず、その上、著者自身が15年ぶりの渡米なので、まったく、現地に伝手もなくなり、どこにいけば、技術者に出会えるのかも、皆目見当がつかない状況下での企画であった。そこで、関係各所に連絡し、「インキュベーションセンター」で出合えるのではないかというという情報を得て、三大インキュベータに参加してきたので、シリコンバレーのスタートアップ事情について、紹介する。

シリコンバリーからやってくる破壊的イノベーション

本題に入る前に、なぜシリコンバレーなのかについて述べる。良し悪しはともかくとして、イノベーションは、アメリカ主に西海岸のシリコンバレーと呼ばれているエリアからやってくる。イスラエルなどの技術もアメリカ経由で日本にやってくる。これは15年前から変わっていない。全米VC投資額の67%がシリコンバレーに集中していることから、このことは裏付けられる。そして、日本には5年から10年遅れて、アメリカのイノベーションがやってくる。つまり、シリコンバレーをみておけば、イノベーションが予測できる。
AppleとSalesforce新社屋
「Apple新社屋」も「Salesforce新社屋」もまだ建設されてなかった。
前者の写真はApple、後者はSalesforceの新本社の完成予定図で、ともに2017年完成を目指している。

三大インキュベータとは

インキュベータのDEMO DAY(プレゼンテーション大会)に参加してきた。三大インキュベータとは、プラグアンドプレイ、500スタートアップ、Yコンビネーターのことを指し、このうちYコンビネーターは後述するように、今回は参加できなかった。
投資家たちは、ユニコーンという呼ばれる巨額の利益(時価評価額が10億ドル以上)をもたらす可能性のあるUberやAirbnbのような上場前の企業をさがしている。ユニコーンなので、さがしていてもなかなかみつからないので、育成しようというのがインキュベーションセンターだ。これは、企業、経営者をゼロから育成する「施設」である。社会に出たことのない学生に対して、「ゴミは捨てろ」から教える。しかしながら、選択されており(Yコンビネーターの場合の合格率は3%といわれている)、真の意味ではゼロではない。育成と簡単に書いたが、従来型のベンチャーキャピタリストにはこの育成ができなかった。そして、これがインキュベータが注目され、優秀なスタートアップが集まる理由だ。

プラグアンドプレイ

創業者であるSaeed Amidiらが所有するPalo AltoのオフィスビルにPayPalが入居したことがきっかけでPayPalに投資をし、PayPalがeBayに買収されたことで大きな資金を得て、SunnyvaleにPlug and PlayTech Centerを開設した。現在は、Sunnyvale、Palo Alto、Redwood Cityの3個所にインキュベーション施設を持ち、350以上のスタートアップを支援している。
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(プラグアンドプレイ社サニベールオフィス)

プラグアンドプレイの投資分野は、IoT、Fintech&Security、Brand&Retail、Media&Mobile、Travel&Hospitality、Health&Wellness、Insuranc、New Materials & Packaging、Mobilityだ。今回は、New Materials & Packagingの分野から16社、Brand&Retailの分野から11社、Fintech&Securityの分野から24社計52社発表していた。
“New Materials & Packaging”以外は、ITを活用した内容であり、興味深いものであったが、いずれも、後述する投資先ランクが”SEED ROUND”か”ANGEL ROUND”で、「アィディア」を説明し、このような優秀なメンバーがいるから、出資してほしいという段階であった。”New Materials & Packaging”では、ランクが”SERIES A”のようで、過去の実績と、予測値を出し、出資(増資)を求めていた。
この発表でwinnerに選ばれることは名誉なことらしく、通路に社名が出てVIP用の駐車場に車を止められるようになる。この間に、投資してもらい、早くexitしろということらしい。
投資家は約50社参加しており、投資先には以下のランクがある。これらのうちに、どのような投資家が今回来ていたのかは不明であった。
SEED ROUND・・・プラグアンドプレイのバートナが出資する
ANGEL ROUND・・・プラグアンドプレイのエンジェルが出資する
SERIES A・・・製品の開発に企業が出資する
プラグアンドプレイの在校生と卒業生
eBayに買収されたPayPalなど、成功した企業のロゴと育成中の企業のロゴが掲示されていた。
こちらは、参加者資格は問われず、誰でもWebからエントリできる。しかし、以下の写真をご覧いただきたい。
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(ピッチ会場風景1)

左手が我々、一般ギャラリ用の椅子だ。テーブルはない。赤い服の方からスクリーン正面は、投資家用テーブルだ。そして、さらに奥にスタートアップが陣取っている。つまり、このように区画して容易にスタートアップには近づけないようになっている。
日本から一社だけ参加していた。真面目に論理的に訴求していたので、日本人の私としては共感できたが、残念ながらwinnerにはなれず2位であった。

500スタートアップ

Dave McClureにより2010年に創業された。50ヶ国1,500社以上のスタートアップに投資している。投資先としては、Twilio、GrabTaxi、Credit Karmaといったユニコーン(評価額10億ドルを超える)企業や、VikiやMakerBot、Wildfire、Sunriseといった大型M&A EXITを達成した企業が挙げられる。日本にも進出してきている。
こちらのDEMO DAYという発表会に参加した。参加対象は、大企業、投資家、プレスに限定しており、当社は大企業ではないので、当初プレスで申し込んだたが、現地において知名度不足という理由で却下されたので、投資家として、参加した。
前述のプラグアンドプレイと異なり、投資分野は限定していない。午前がシリーズA(すでに製品の販売実績がある)、午後がシリーズA以外となっていた。投資家相手のためか、技術的優位性ではなく、収益性について、アピールしているのは、プラグアンドプレイと同様だ。次回は2017/2/15と三か月おきに開催している。
参加者は100名以上で、規模はプラグアンドプレイより大きい。そのうち、半数くらいは投資家のネームプレートを付けていたが、調査目的が大半と思われた。
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(500Startups EXPO会場風景)

ちょうど、ハロウィンだったためか、プラグアンドプレイより、演出があり、独特な雰囲気であった。会場が暗くて、メモを取るのが大変だったので、ハロウィンとは関係なくいつもお祭りなのかもしれない。
ピッチ会場風景2
[themeone_image url=”https://www.bigtreetc.com/wp-content/uploads/2016/12/siliconvalley008.jpg” alt=”締めの記念撮影” background=”” anim=”flip-in” delay=”0ms” width=”600px”]
(締めの記念撮影)

Yコンビネーター

Lispプログラマであり、世界で初めてASPサービスを作ったことで知られるPaul Grahamなどにより2005年に設立された。スタートアップ企業に対し小額(2万ドル前後)を投資し、3ヶ月のスクールを通じて集中的に指導し、ほかのベンチャーキャピタルから投資を受けられる状態まで育成する。しかし、参加がかなわなかった。日本語訳された書籍もあり、AirbnbやDropbox、Bumpやherokuなどのエッジの効いたサービスを育てたことで知られ、有名だが、DEMO DAYと呼ばれるプレゼンテーションのスケジュールが公開されていなかったためだ。ユニコーンという珍獣は、容易にはみつからないのだから、簡単にみせてくれるわけはない。シリコンバレーのベンチャーキャピタリストの中では、これを「ガラスの中にいる」という表現を使う。どのくらい浸透している言葉なのかわからないが、Yコンビネーターという「ガラスの中」に入ると、育成してくれて、そして、Yコンテナの卒業生であることで、資金が集まるというエコシステムができあがっている。Yコンビネーターの「ガラスの中」を覗くために、Yコンビネーターのパートナになり、投資をし続けていく必要がある。パートナになるための道のりについては、今回のミッションではないので、別途の機会とした。
後日、Yコンビネーターの卒業生、Spire、LE TOTE、LITTLSTARのCEOのパネルを聞く機会があったが、日本に進出してくるくらいに成功して、確かに「ガラスの中」にいれておきたい優秀な経営者達であった。

「観客になるな。プレイヤになれ」

日本では、スタートアップは起業であったり、スモールビジネスであったりするが、本来の意味は、「新しいビジネスモデルを開発し、短期間で急激な成長し、一獲千金を狙う一時的な集合体」だ。この「一時的」なということは重要で、目的を達成したら、チームを解体して、つぎのビジネスでは、それに適した組織を構築するということで、かなり機能的である。実体がある商品を生み出していない組織に資金を投入する風土もすごい。
デザインシンキングが浸透しているのか、テンプレートなのかは不明だが、問題を提起して、解決策を提示し、このような組織で、これくらいのスピードで達成するので、投資してほしいということを、数分の持ち時間で、プレゼンテーション(ピッチと呼んでいた)して、数か月分の資金を調達して、サービスを提供していく。数か月分の資金しか調達できないわけですから、スピードが要求されるわけだ。
シリコンバレーの成功の秘密はこの辺りにあると理解した。シリコンバレーでは、「観客になるな。プレイヤになれ」という言葉があり、考えているだけでは、意味がないので、プレイヤとして参加していきたい。そうすれば、今回、出合えなかったエッジの効いた技術や、技術者に必然的に出会えていくのであろう。

今野 睦

著者: 今野 睦 略歴

千葉大学修士課程を終了後、1986年から独立系SI会社や複数のベンチャー企業において取締役を務め、2016年9月弊社にインキュベーション事業部長として入社。黎明期のオブジェクト指向技術の普及に尽力し、先端技術の導入を得意としています。情報処理推進機構(IPA)ITスキル標準センタープロフェッショナル・コミュニティITアーキテクト委員。著書(監修、共著)六十数冊、雑誌への投稿多数。学術博士(Ph.D.)。
■株式会社ビッグツリーテクノロジー&コンサルティングについて
我々BTCはテクノロジーのみならず、コンサルティング技術も活用することで、ITを使った文化革命において、新しい価値を創造し、真の成功を目指すお客様のパートナになりたいという思いで、デジタル事業部、SI事業部、HR事業部及びインキュベーション事業部が一丸となり事業を推進してまいります。
<本件に関するお問い合わせ先>
株式会社ビッグツリーテクノロジー&コンサルティング インキュベーション事業部
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